エドガー・アラン・ポオ、谷崎潤一郎、江戸川乱歩、三島由紀夫。人工楽園を巡る耽美文学の系譜。

 朝、何気なく青空文庫を眺めていたところ、谷崎潤一郎の「黄金の死」が収録されていたので読み返してみました。

 谷崎のほかの『春琴抄』だとか『痴人の愛』だとか『細雪』といった有名な作品と比べるとあまり名を知られた小説とはいえないかもしれませんが、個人的にとても好きな短編です。大正期の谷崎の代表作ですね。

 ちなみにぼくが偏愛する「天鵞絨の夢」なども大正期谷崎の作品です。これは異様に妖しくも倒錯した世界を活写した大傑作(ぼく評価)なのですが――あたりまえのように未完に終わっています。

 全十作の妖美な短編を数珠繋ぎにした壮麗な小説になるはずだったのだけれど、企画倒れに終わっていて、完成したのはわずか三篇、で、特に面白いのは初めの二編という始末。

 どうも谷崎という人はその天才的な文章力と比較して、物語作家としての構成力にはそれほど恵まれていなかったと思しく、そのせいなのか、どうか、この手のテクニカルな小説を書かせるともうひとつ完成度に欠けるところがあるような気がします。

 ええ、ぼくふぜいが偉そうに批評するのも何なのですが。

 どうもこの頃の谷崎作品は現在に至るまであまり高く評価されていないようなのですが、ぼくは後期の作品より好きです。

 この時代、かれの作風は究めて絢爛たる耽美な世界に近づいていて、のちのリアリズムっぽい作品、たとえば『痴人の愛』などとはべつの作家が書いているかのようです。

 非常に華美で人工的で、たぶんここら辺が一般的な文学作品として高く評価されないところなのだろうと思うんですけれど。いいじゃんね。

 まあ、もちろん、谷崎の作風はどの時代も総じて耽美で華麗なのですが、それでいてどうにも「向こう側」へ行き切らない、美に耽り切らない作家でもあるように思えます。

 たしかにいかにも妖しく、また頽廃的な物語を綴ってはいるのですが、それでもどこか健康というか、知的に変態趣味を描いているところがあるといえば良いでしょうか。

 ぼくとしてはもっとどろどろに変態趣味に浸っても良いのにな、と思うところがなきにしも非ず。で、その谷崎のスタイルがいちばん「向こう側」へ近づいたのが、この「黄金の死」であり、「天鵞絨の夢」だと考えます。

 いずれも背徳の人工楽園を描くという発想が共通しています。いやまあ、「天鵞絨の夢」のほうは背徳というか犯罪そのものなのですが、「黄金の死」はいちおう合法的です。

 日本のある山のなかに各国の芸術品を集めてならべ、一つの人工的な楽園を生み出してしまうという話ですね。聞くところによると、大ポオの「アルンハイムの地所」の影響を受けているとか。

 贋作だらけの山中楽土を安っぽい観光地趣味と否定的に見る人もいますし、また、いかにも中国かどこかにありそうな胡散臭いテーマパークに思えることもほんとうなのですが、さすが、谷崎の秀抜な筆致で描かれるとそうは思えないこともたしか。

 ある狂気の天才のみが生みだせるような美しくも狂った世界が目に浮かびます。まあ、作品の選択具合が悪趣味といわれれば返す言葉もないけれど。日本の山奥にアングルの『泉』そのままの彫像をもってきても、ちょっとね。

 ものすごい文章力で巧みにごまかされてはいるけれど、金持ちニートのしょうもない道楽というふうにも見えるよなあ。小説を読んでいるあいだはそういうことは思い浮かばないので、やはり秀逸な作品だとは思うのですけれど。

 この、ひとりの天才芸術家によって創られた人工楽園というアイディアに豪く感銘を受けたのがかの江戸川乱歩。かれの代表作の一つ『パノラマ島奇譚』は「黄金の死」から直接に影響を受けています。これ、漫画化されていて、それがまた大傑作なんですけれどね。

 ポオから始まったアイディアがさまざまに形を変えた作品として仕上がっているわけです。いやー、一つの作品がいろいろな影響を与えるものですよね。ポオに谷崎に乱歩というのも凄いラインナップだなあ。

 さらに余談を連ねておくと、ちょっと調べてみたところ、谷崎自身によって否定的に扱われていたこの作品を再評価したのは三島由紀夫だそうです。

 三島自身も「癩王のテラス」という戯曲をものしていて、これも人工楽園を描いた作品なのだとか。なのだとか、などとあいまいに書くのはぼくはこの作品を読んでいないからで、あしたかあさってあたりに読んでみようと考えています。

 こういうふうに何かしらの関連性のある作品を追いかけていくのは読書の歓びそのものですね。どのジャンルでも、メディアでも、作品は何らかの形でつながっていて、それを追いかけていくと非常に遠いところまで行けたりするものなのです。

 まあ、いかにも際限がないことも事実なのですが……。

 こうやって幾つか本を読み耽っていると、小説って面白いなあとあらためて感じますし、とても倖せな気分になります。ぼくの人生の倖せはだいたいそのようなものです。生きているってすばらしい。

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